MENU CLOSE

この手で運をつかみ取る 天然氷のかき氷戦士 高橋 秀治 PART-1

山梨県北杜市にある「道の駅はくしゅう」の一角に、長い行列ができている。南アルプス・八ヶ岳の天然氷でつくった「蔵元八義(やつよし)のかき氷」を求めて、日本各地からファンが集まってくるのだ。蔵元の職人・高橋秀治は、かつて年商25億円を誇るIT企業の代表を務めていた。その後、事業から撤退し、次なる道を模索していた時に出会ったのが、天然氷のかき氷だった。

◆まるごと果実と練乳、フワフワとろけるかき氷

高橋秀治がつくり出すかき氷は絶品だ。まずは、水がいい。なんといっても、名水百選「八ヶ岳南麓高原湧水群」の水を井戸で汲み上げて使っているのだから。次に氷づくりに妥協がない。氷点下の真冬の夜、氷を守るためには屋外で徹夜することもザラだという。氷を削る刃にはどこまでもこだわり、削り手には研修と実地でとことん技術を学ばせる。最後に特筆すべきは、シロップ! 厳選された季節の果物をまるごと惜しみなく使用した無添加シロップは、練乳と共に氷に溶け込み、その味はなんともまろやか。

蔵元八義直営「天然氷のかき氷 はくしゅう道の駅店」には時おり、“ゴーラー”、または“カキゴオリスト”と呼ばれるかき氷マニアがやってくる。彼らは、メニューの端から順番に食べていき、時間を置いてまた続きを食べていく。一度に続けて8杯完食したツワモノもいたそうだ。「アボカドマスカルポーネ」「ティラミス」「信玄餅」「宇治金時」「安納芋」など、イタリアンから和風までなんでもありのメニュー。どれも試さずにはいられない。

続けて食べられるのは、天然氷のかき氷だからこそ。頭がキーンとならないし、体も思ったほどは冷えないのだ。その理由は、天然氷は不純物が少なく氷点が高いから。つまり、冷凍庫で急速冷凍してつくった氷と比べると温度が高いのだ。さらに、自然のなかで二週間以上の時間をかけてゆっくりと凍らせているため、その結晶は硬い。だからこそ、筋目に沿って鋭い刃で削ると、シルクのようにふんわりとしたかき氷が生まれるのだ。口に入れると一瞬のうちにとろけ、冷たさの刺激を感じるより先にシロップのうま味が口内に広がる。蔵元八義のかき氷は、温かくて優しくて、エレガントなのだ。

◆突然の経営破綻

高橋にはビジネスの才がある。大学在学中からIT時代の到来を予測し、卒業と同時に起業。小さなパソコン教室の立ち上げから始めて、次第に規模を拡大していった。並行して、IT人材派遣業にも参入し、売り上げは年々伸びていくばかり。2011年に入り、その売上高はピークとなる。だが、あの日を境に、状況は一変した。

「忘れもしないですよ。2011年3月10日に会議で当期売上報告をしたんです。過去最高の売り上げでした。パソコン教室部門が15億円、IT人材派遣部門が10億円。俺、もう、ウッキウキ。前年度、関西方面に進出したのが当たりましたね。大阪のタワマンに住んで、ウッキウキ楽しい大阪ライフを送っていたんですよ」

会議の翌日、東日本大震災が起こった。その後なぜか、パソコン教室の入学予定者たちから、キャンセルが相次いだ。

「東北に教室があったわけじゃないんですよ。それなのに、売り上げはどんどん落ちていった。当時は『パソコンの勉強なんかしている場合じゃない』って雰囲気だったじゃないですか。だいたい、俺自身もそんな気持ちでしたから。人材派遣もかなり戻されちゃいました。東北出身の従業員が地元に帰ったということもありましたね。身銭を切って給与や家賃を支払い、最後は自己破産。愛車のポルシェもベンツも売りました」

高橋は会社も従業員も車も、すべてを失った。だが、彼にとって最も大切な家族だけはすぐ近いところに残っていた。3人の子どもたちは中学2年、小学6年、小学3年。多感な年頃だ。
「こいつらのためになんとかしないといけないな…」。

◆「かき氷屋で40分並ぶってどういうこと?」

2011年秋、高橋は次に進むべき道を模索していた。彼のビジネスセンスを買っていた知人は、雇われ社長のポストを空けてオファーしてきた。そんなありがたい話がいくつか舞い込んできたものの、もうひとつ踏み出せずに考え込む日々が続いていた。

そんなある日、妻が「かき氷屋さんに行きたい!」といいだした。東京の下町・谷中にある「ひみつ堂」。ちまたで「行列ができるかき氷専門店」と話題になっていた店だ。
「俺、社長時代は並んだりしませんでしたよ。予約もしないで、『俺だぞ』って店に入っていく嫌なやつだった。でもその時の俺はプータロー。時間はいくらでもあった。40分きっちり並びましたよ」

並びながら、高橋は考えた。
「かき氷屋で40分並ぶってどういうこと? 一杯1000円でしょ? 24席あって一時間に何回転するんだろう? 一日の売り上げは? 11月でこの人気だから、夏場はもっとすごいのだろう」

「これだ!」
突然、高橋のビジネス魂に火がついた。それからというもの、高橋は毎日のようにかき氷の人気店を回った。都内の有名店は日光の天然氷を使用しているところが多い。早速、有名な日光の蔵元に「二貫ほど氷送ってくれませんかね?」とオーダーしてみた。だが、世の中そう甘くはない。「氷も知らない、削ったこともない素人が天然氷仕入れてどうするんですか。5、6年経験積んでからまた来てください!」。バシっとはねのけられた。当たり前だ。かき氷ブームにただ乗っかって店を出そうとしたところで、そう簡単にいくわけがない。だが、拒絶されると俄然やる気が出てくるのが高橋の性格。

「天然氷って、池に水張って、ちゃらちゃら凍らせて切り出してるだけじゃないの? それなら俺が氷もつくってやるわ」

 

次のページにジャンプ

デリシャスタイムのレストランプロジェクト

ピックアップ

Instagram