MENU CLOSE

俺にはやるべきことがある 相澤 太 PART-1

矢本の浜に相澤 太あり。宮城県東松島市で海苔養殖業を営む彼は、皇室への「献上海苔」の栄誉を競う「奉献乾海苔品評会」において、史上最年少で二度の皇室献上の栄に浴した。東日本大震災では自ら津波の被害に遭いながらも、若手リーダーとして浜の復興を牽引。 “コンビニおにぎりブーム”などから、海苔の品質より量、安定供給が優先されがちな昨今、この男はブレることなく、手間と愛情をたっぷりかけた極上の海苔づくりをしている。

◆「ひとりずつ、ぶっ倒していこうと思った」

相澤は相当の負けず嫌いである。海苔漁師になるからには、浜一番にならないと気がすまなかった。「俺、ひとりずつ、ぶっ倒していこうと思ったんで」と彼はいう。それはもちろん、暴力で倒すという意味ではなく、ライバルたちの“技”をひとつずつ自分のものにして力を付け、海苔づくり最高位のタイトルを手に入れたいと考えたのだ。

彼は高校を卒業してから半年間、熊本県の有明海沿いにある海苔の養殖に関する研修所で修行した。そこで、海苔を生物学的、生理学的見地から学び、養殖の基礎を習得した。「矢本の浜に、細胞のことまで考えて海苔をつくっている漁師はいないだろう」。相澤はそう考えて、自信満々で帰ってきた。

初仕事。父の漁船に乗った。だが、初日にして見事に鼻をへし折られた。相澤は、船の動かし方、風がどう吹いているのかということ、ロープの結び方もわからない。すべてにおいて未熟。それは海の上だけではなく、陸でも同様だった。海苔工場では工程ごとに海苔の味、個性を決めるポイントがある。長年の経験で培われた技術と勘がないと、そのポイントで適切な処理ができず、うまく海苔の味を引き出すことができない。相澤はそんなことすら、まるでわかっていなかった。海苔漁師の仕事をあまりに軽く考えていたことに気付き、そんな自分を心から恥じた。それと同時に、海苔づくりの奥深さ、魅力を知り、それから一気にのめり込んでいった。

◆一年間に5年分の経験値を積む

浜一番の海苔漁師になるためには、どうすればいいのだろう。普通にやっていたら、ライバルたちも同じように成長していく。そこで、相澤は一年間にベテランの海苔漁師5人の仕事を見ようと考えた。そうすれば、一年で5年分の経験値を積めるはずだ、と。父親は何も教えてくれなかった。それは、「教わるのではなく、見て、考えて、真似て、盗め」という父親流の指導方法だったのかもしれない。相澤は懸命に、父やほかの漁師たちの仕事を見て回った。それぞれの船が持つ小技、流儀を身に付けて、短期間にメキメキと腕を上げていった。

努力の甲斐があり、相澤は23歳の時、毎年、塩竈神社で実施される「奉献乾海苔品評会」において準優賞を果たし、28 歳では念願の優賞を獲得した。準優賞以上の海苔は、皇室献上品として認められる。相澤は史上最年少で、自身のつくった海苔が二度皇室に献上されるという栄誉を受け、名実共に、浜一番の海苔漁師となった。

◆「このままではやっていけなくなる」

ある日、相澤は宮城県が主催するパネルディスカッションに参加した。それは、生産者、問屋、県会議員をメンバーとする意見交換の場だ。生産者代表として参加した相澤は、問屋に質問した。
「こんなに良い海苔をつくっているのに、どうして高く買ってくれないんですか?」と。手間暇かけてつくった自慢の海苔が、市場で安く買い叩かれている現状に不満を持っていたからだ。
「相澤くん、何いってるの。今こういう時代なんだよ。外国からもどんどん良品が入ってくるし。あんたら、こういう値段でつくっていけると思ったら大間違いだよ」
ショックだった。これまで、おいしく高品質の海苔づくりに時間を注いできたのに、そのことすべてを否定された気持ちになった。同時に、このままではやっていけなくなると考えた。

◆茶髪にピアスで営業を始める

「つくるだけではだめだ。俺の海苔をわかってもらうためには、直接販売しないといけない」

相澤は、飛び込み営業を試みた。山形県の「道の駅」など、8店舗をひとりで回って営業した。だが、まるで相手にされず、話も聞いてもらえない。当然だ。サンダルにジーパン、茶髪にピアスで、敬語の使い方すら知らない相澤が営業して歩いたところで、うまくいくわけがない。

しかし、相澤はそこで諦めない。ビジネス書を何冊も読んで、ビジネスマナー、企画書の書き方などを勉強し、髪を黒く染め直してスーツも買った。

熱心に営業を続けているうちに、仙台の大手スーパーや仙台市内のデパートの担当者に会うことができた。一度は、産直品は扱わないと断られたものの、熱意を認めてもらい、店に相澤の海苔を置いてもらえることになった。その後、デパートの催事場でも期間限定で扱ってもらうことができた。

次のページにジャンプ

デリシャスタイムのレストランプロジェクト

ピックアップ

Instagram