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偉大なる海と父に生き方を学んだ 【阿部 晃也 PART-2】

◆「ひとりで海に行ってこい」

念願かなって父親の漁船に乗せてもらったものの、みごとに何もできなかった。船の上ではまるで役立たず。牡蠣棚が海上のどこに位置するのかさえわからない。とはいえ、幼い頃から真面目という言葉とはほど遠い性格。当然、父親に教えを請うことなどはしない。前日の酒が残っているのか、船酔いしているのかもわからず、嘔吐しながらふて寝を決め込んだ。父親は晃也を叱ることもなく、また教えることもせず、ただ好きなように放っておいた。

24歳の正月二日、いつもどおり、晃也は父親とふたりで漁に出た。その時、事故が起こった。牡蠣の水揚げの最中、巻き上げ機に父の手が巻き込まれたのだ。船上に真っ赤な血が流れた。作業を中止して、港に戻らないといけない。だが、大怪我をした父親は晃也に舵を渡さなかった。

「親父は手を怪我してるのに、俺に運転させてくれなくて。それがもう本当に悔しくて、悔しくてしょうがなかった」

晃也はその時、初めて無力な自分を悔いたという。翌日、父親は晃也に海図を渡し、「ひとりで海に行ってこい」といった。

それからは、晃也ひとりで漁に出るようになった。

「いいきっかけでしたね。あれがなかったら、ずっと甘えてたし。結局海では何も通用しないんですよ。陸でやんちゃしていても、海では無力というか。つっぱったところで、海では誰も認めてくれない。俺が落ち着いたのは海のおかげですよ」

◆「牡蠣大好き!」は愛の告白

晃也は本気で牡蠣の養殖に取り組み始めた。朝、昼、晩と、牡蠣のことばかり考えていた。仲間と飲んでいる時も、話は牡蠣のことばかり。「おまえ、牡蠣から生まれたんじゃないか?」と周囲から言われ、「牡蠣の妖精」と呼ばれたこともあったほどだ。

「そのうち、牡蠣が好きなヤツとしか遊ばなくなっちゃいましたよ。牡蠣食べられないってのは、自分否定されるのと一緒なんで。牡蠣イコール自分です。牡蠣が好きな人と牡蠣を食べながら飲む。それが一番の贅沢ですね」

「女の人にも必ず聞くんですよ。『牡蠣食べられますか?』って。『牡蠣大好きです!』っていわれると愛の告白かと思っちゃいます」。晃也は「牡蠣が大好き!」という女性と結婚し、現在は3人の子どもたちの父親となった。「自分が親父を見て牡蠣漁師になりたいと思ったように、子どもたちからそう思われるような父親になりたいですね」と、晃也はいう。

◆震災後も海から目を背けなかった

奥松島は、牡蠣の種付けでも名高い。海中に吊るしたホタテの殻に牡蠣の卵(幼生)を付着させて種牡蠣をつくる。伝承された技術がある上に、松島湾は潮の満ち引きが大きく、種牡蠣をつくる環境として適している。かつては種牡蠣をアメリカやフランスに輸出していたこともあり、現在でも宮城県は種牡蠣の販売量では全国一位を誇り、奥松島水産では牡蠣の生産地として有名な広島県、岩手県を含む、北海道から九州まで日本各地の生産地に種牡蠣を販売している。

東日本大震災で、奥松島の漁港、養殖場、牡蠣剥き場などはすべて壊滅した。かつての賑わいある風景は一瞬にして変わり、残ったのは瓦礫の山だけだった。荒れ果てた海で行く末もわからないまま、晃也はただ流された種牡蠣を拾い集めた。

「ここの牡蠣を待っているお客さんがいるから。種さえあれば、また牡蠣をつくれるから…」

自分を真っ当な人間にしてくれた海。父の偉大さに気付かせてくれた海。その海を敵(かたき)のように思うのが辛かったのかもしれない。若かった頃、一度海から離れた晃也だったが、この時は海から目を背けなかった。

◆二月が一番おいしい晃也の牡蠣

現在、種付け業は主に父の達也が担当し、晃也は牡蠣漁に専念している。

「種もいずれは俺がやらないといけないと思ってます。でも、俺、子どもの頃からほめられたことなかったから、お客さんに『おいしい』といわれると素直にうれしいんですよ。だから今は、牡蠣づくりやってます」

「うちの牡蠣は二月が最高です。年末はフレッシュな味。それが春になると濃厚になる。二月は、フレッシュさと濃厚さのバランスがちょうどいい。4月になると、身はパンパンだけど、濃厚すぎて量は食べられない。牡蠣といえば12月のイメージがあるけど、東京の味がわかってる寿司屋は、年が明けてから注文してきますね」

晃也は国際協力機構(JICA)からの依頼で、一年に二回ほどフィリピン、インドネシアで牡蠣養殖の指導をしている。特別な資材を日本から運ぶのではなく、現地で入手できるものを利用しての養殖法を指導するのが晃也流だ。教科書どおりではなく、自分で考える。工夫する。やんちゃだった元ヤンキーは、遠回りしたからこそ本当に大事なことを知っている。

「俺、親父のこと尊敬しているんで」

そう素直にいえる晃也は、最高にかっこいい。

奥松島水産 WEBサイト

www.umakaki.com

取材・文 沖山ナオミ

デリシャスタイムのレストランプロジェクト

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