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こきりこ節の里で静かに、強く生きる 【杉本 清 Part-1】

柿の皮を食し、尺八の音を聞いて育つ豚がいる。長年、養豚業に携わっている杉本 清は、富山県南砺(なんと) 市の新ブランド開発事業に参加して、上質の豚をつくり出した。その豚肉は農林水産大臣賞を受賞するほど評価が高く、 生肉以外にも『なんとポーク』 というブランド名でウィンナー、ベーコン、ハムに製品化されて富山県内に出回っている。

◆小さい養豚場やから、いつ潰れるかわからんよ

世界遺産で有名な五箇山からほど近い、富山県南砺市城端(じょうはな)。日本の原風景ともいえるこの地に足を踏み入れると、なぜか懐かしい気持ちになる。黒い瓦屋根の家が点在する。収穫を終えた田んぼが続き、その先には柿の木畑がある。近くに迫る山々は初雪を冠していた。どこからか尺八の音が聞こえてくる。五箇山地方に伝わる民謡 「こきりこ節」だ。

 

尺八を鳴らしていたのは、この地で生まれ育った杉本 清。妻と共に養豚業を営む。毎日、豚の餌やりを終えると、趣味の尺八を吹く。ハードな仕事の合間、ほんのつかの間の心安らぐ時間だ。杉本は、「かあちゃんとふたりでやっとる小さい養豚場やから、いつ潰れるかわからんよ」といってハハハと笑う。

365日、夫婦だけで母豚70頭、幼豚、子豚などを合わせると700頭にもなる豚の世話をしていながら、「大変なのはどんな仕事でも一緒。今さら転職するわけにはいかんし」といってまた笑う。

杉本は苦労を表に出さない。自慢もしない。とびきり上等で美味な豚肉を生産しているにもかかわらず、それをアピールしないのは彼の個性なのか、富山県人の気質なのか…。

◆柿の皮はそこらへんに余ってるから入れとるんですよ

杉本が飼育する豚の一部は“柿の皮”を食べている。実はこの地域は、古くから干柿の産地として有名で、皮は干柿生産の副産物だ。杉本は出荷2か月前の豚に、乾燥させて粉砕した柿の皮を配合飼料に混ぜて与えている。量に限りがあるため、厳選されたエリート豚のみがこれを食すことができる。

皮は果肉以上に栄養があり、ポリフェノール、ビタミンCを豊富に含む。つまり杉本のエリート豚には、出荷前に天然のサプリが与えられているのだ。健康に育った豚はストレスも少なく、当然脂肪の質も良い。それは肉の味にも好影響をもたらすはずだ。

「柿の皮はそこらにあまってるから入れとるんですよ。それでおいしくなってるかどうかはわからん」、杉本はまた笑いながら謙虚にそういう。だが、彼が育てる豚肉は間違いなくおいしい。サクッと柔らかく、それでいてジューシー。適度にサシが入った肉と脂身はほんのり甘く、上品な旨味がある。

◆『なんとポーク』は価値ある貴重なブランド

南砺市は2004年に8つの町村が合併して生まれた新しい市 。そこで新たに「南砺(なんと)」という地名を冠した名産品をつくることを目的に、「南砺市農畜産加工ブランド開発協議会」が発足された。そこで企画されたブランドが『なんとポーク』だ。この地で盛んな養豚と干柿の副産物を組み合わせて商品化しよう、という試みだ。

 

皮の有効利用は良いアイディアではあったが、飼料化するためにかかる手間と費用は当初の予想以上のものだった。柿の皮は栄養価が高いだけに、剥いたものを1日放置しておくと、すぐに発酵して腐ってしまう。柿の収穫時期である11月に入ると北陸の天気は悪くなるため、天日干しは難しい。解決策として、廃業した干柿農家の乾燥機を使える段取りがついたものの、今度はその作業をする人手がない。人手を確保できる農閑期の1月まで待って乾燥作業をするとなると、その時期まで腐らせないために冷凍庫が必要となる。ゆえに柿の皮飼料は量産が難しい上にコストもかかり、限られた豚にしか与えられない貴重なものとなった。

『なんとポーク』は柿の皮を食した豚のみが名乗ることがを許される、価値あるブランド。杉本がつくった豚肉は、地元の老舗「花島精肉本店」でソーセージ、ベーコン、ハムに加工され、「株式会社なんとポーク」を介して販売されている。

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